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どのようにして「ジャイアント『ガラモン』マルサン製拡大版 1200mm」は誕生したのか? 関係者証言から製作過程に迫る!




右足の内側に「マルサン」の刻印。足裏には右足裏に「円谷プロ」と「JAPAN」、左足裏に「NAGNAGNAG」を刻印

国内外で注目されたソフビアーティスト・NAGNAGNAG氏が昨年11月に急逝……。この突然の出来事に、未完のままで止まっている数多くの氏の作品の発表を目的とした団体「NEW ART GUILD」がメディコム・トイの赤司氏(竜彦/メディコム・トイ代表取締役社長)をはじめ、氏と親交のあった仲間たちにより結成された。その作品のひとつとして、先日の「MEDICOM TOY EXHIBITION ’24」でお披露目され、怪獣ソフビ好きを驚愕させたのが、1200mmの「ジャイアントガラモン」だ。これは「マルサンガラモン1期」と呼ばれる怪獣ソフビの傑作スタンダード(全高約23cm)を1200mmへ拡大した作品。ほとんど類を見ない大きさの怪獣ソフビだが、本作は果たしてどのように誕生したのか? 作家本人が逝去したいま、真相はわからないが、これを引き継いだ関係者証言から、怪獣ソフビ好きの誰もが興味のある製作過程を紹介したい。

始まりは、NAGNAGNAG氏の「1200mmの『ガラモン』を作りたいんです」という発言からだった。このプロジェクトを牽引した赤司竜彦氏(メディコム・トイ代表表取締役社長)が語る。
「でもこのサイズは、2000年代の初めに『ジャイアントカネゴン』を発売したM1号・西村(祐次/M1号代表)さんの企画だという話をしたんです。ただ彼は『M1号さんが発売するなら何も言いません。でも10年以上待ったけど未発売のままです! 多分このままだと出ないので、だから私が作りたいんです』ということだったんです」と氏の熱い想いを振り返る。
それもそのはず、NAGNAGNAG氏はマルサンやブルマァク、そしてM1号の怪獣ソフビに並々ならぬリスペクトを持っていたという。赤司氏は、その熱量を理解する一方、プロジェクトはナイーブな問題も含むので、まずライセンス元である円谷プロダクションはもちろん、M1号にプロジェクトについて打診する。するとM1号から「多分やらないのでどうぞ」という回答が返ってきた。というのもM1号には、それを「やらない」理由があった。
M1号の「ジャイアントカネゴン」について西村祐次氏(M1号代表)は「1966年ごろのマルサン商店(当時社名)で、新作展示会の写真があるんですが、そこに大きな『カネゴン』が写っているんです。それはスタンダードサイズの『カネゴン』の写真を大きく伸ばしたモノなのか、実際に1体だけ製作した立体なのか? よくわからない。『ジャイアントカネゴン』は、それを再現したモノなんです」と製作コンセプトを説明。そして第2弾として、実は「ガラモン」も候補だったという!? ただ「『ジャイアントカネゴン』は、組立てから転倒防止の発泡剤入れまで、全てM1号内で作業して、塗装場所もままならなず、1週間に1体ぐらいしか作業できなくて、とても生産性が悪かったんです。全てお願いできる工場があればよかったんですが、それはなかったし……。M1号の規模でこのサイズ……特に転倒防止対策の作業など、これ以上は無理という判断からその後の企画も断念したんです」と経緯を語ってくれた。つまり「やらない」というより「できない」という判断だったのだ。円谷プロダクションからも、商品化については基本的にOKだが「転倒しないようにすること」を中心に安全性への配慮を特に念押ししてきたという。

また赤司氏は、M1号への確認と同時に肝心なメーカーにもプロジェクトの打診をしていた。もともと1966年に「ガラモン1期」を発売したマルサンである。このプロジェクトについて現MARUSAN代表の神永英司氏は「『ガラモン』というと『マルサン1期』は、今だとすごい値段だったりして、怪獣ソフビのアイコン的イメージが大きい。だから『ガラモン』を大きくしたり、そういう需要もあるのかな? と受け取りました。この大きさだと普通のおもちゃ以外……例えば店頭用ポップとかいろんな用途がありますよね」と、すんなり快諾。
そして「ガラモン」ソフビについて「1966年にマルサンが初めて発売した怪獣ソフビの中の1番最初の4つのうちのひとつで、ほかには『ゴメス』『ゴロー』『ペギラ』がありました。これらは元型成型の紺(通称ゴジラブルー)で成型して、それをくるみ彩色しているんです。『パゴス』と『カネゴン』は、その後の発売なので、元型からの成型ではなく濃紺成型のくるみ塗装版は、当時発売されてない。1番わかりやすい特徴は『ガラモン』と『ゴメス』の1期は、尻尾が別パーツで動く。その後『2期』以降は生産型になって尻尾が一体化されてしまった。だから『ガラモン』と『ゴメス』の『1期』は現在のアンティーク市場では、とてもレアで高価なんですね」と解説。その中で造形についても言及してくれた。
「これは着ぐるみを元に当時のマルサンでお願いしていた原型師・河本武さんが原型を手がけました。かわいいけど、その中に少しリアルも残して、ギリギリ子供用のおもちゃの造形に置き換えている。そのリアルとデフォルメのさじ加減が抜群だと思うんです」
リアルとかわいいのさじ加減こそが怪獣ソフビ造形のキモ! それが「マルサンガラモン」を傑作たらしめているのだ。
余談になるが「ガラモン」について、神永氏の思い出がおもしろかったのでふれておきたい(笑)。
「幼い頃、近所のスーパーで初めてマルサンの怪獣ソフビを見た時『カネゴン』や『ガラモン』が欲しかったけど、売り切れていて、もう『ゴメス』と『ゴロー』しか残ってないんです。しかも当時の私は『ウルトラQ』を途中から見始めていたので、1話の『ゴメス』、2話の『ゴロー』を知らない……だから子供の私は『誰こいつ?』みたいな(笑)。怪獣らしいということで『ゴメス』を買ってもらいましたが、欲しかった『ガラモン』が手に入らなかった悔しさを思い出します」
ただ「ジャイアントガラモン」については、気になる点も指摘してくれた。
「原型は3D? 3Dだと気をつけないといけないのが、データは正確に拡大するけど、それが見た目で正しいかというとそうではない所です。例えば道路で車を見た印象と、高いビルの窓から車を見下ろした印象が全然違うってことなんです。逆も同じで正確にスケールダウンしても、また印象が違う。この場合の制作にはポイントがあって、例えば、ミニカーなど作るとき、実際のサイズより太らせるんですね。この太らせ加減がとても大事! だから今回のプロジェクトは、このさじ加減が、どういう感じか? 1番大事なのは印象なので、そこを大事にしていただければと思ってましたし、そこに1番、興味がありました」
これは製作する側ならではの視点だろう。

こうしてライセンス元の円谷プロダクション、企画元のM1号、そして発売元のマルサン、それぞれの確認が整ったところで、いよいよプロジェクトが始動する! 作業は最初に西村氏所有の「マルサンガラモン1期」から「復刻」したM1号製「ガラモン1期復刻版」を3Dスキャンし、それを拡大出力するところから始まった。原型制作は、NAGNAGNAG氏がメディコム・トイで手がける一連の「ゴジラシリーズ」で原型を担当したパイドパイパー氏だ。
「NAGNAGNAGさんは、マルサンさんの『ガラモン』やM1号さんに対して、もの凄いリスペクトがあるので、今回は『自分の色は強く出さない』ということでした。単なるスタンダードのサイズアップということではなく、そのサイズに合ったディティールで仕上げたいとも言ってましたね。だから原型ではエッジを効かせたり、溝を深くしたりする作業をしています」
拡大出力すると表面造形がゆるくなるため、新たにディティールを加える。そして原型の納品はFRPのため、発泡スチロール原型が完成したらFRPへ置換え、さらにテクスチャー入れるため削ったりの作業を繰り返し、製作期間は集中して約3ヶ月におよんだという。ディティール入れのさじ加減は、NAGNAGNAG氏が判断しながらパイドパイパー氏と一緒に作業した。
「NAGNAGNAGさんって、皆さん無理難題言いそうなイメージをお持ちなんですが、実際は寡黙で無理難題はないです。ただ前回こうしたけど、やはりこうしたい! など常に良い方向を目指して試行錯誤し、思いついたら更新していく感じでした。毎回テンションの波はありましたが実際に完成した原型は、比較的ハマった感じでしたね」



完成した発泡スチロール原型! とにかく大きい!


FRP原型とワックス! 右写真の奥に松井静雄専務とNAGNAGNAG氏


完成した金型から。写真は頭部(左)とボディ(右)

そして「ジャイアントガラモン」の成型を担当するのが、ソフビ好きなら誰もが1度は耳にしたことがあるオビツ製作所だ! 1200mmという前代未聞のサイズのソフビ制作に関わった松井静雄専務に伺った。
「プロジェクトは、2023年の5月頃、NAGNAGNAGさんから『1200mmの『ガラモン』を作っているが、金型が大きすぎて依頼先のローテーション成型機に入らない。オビツさんの成型機なら入るかな……?』と相談された時、初めて知りました。『原型を見ないと分からない』と伝えたところ、数日後に原型の7パーツを持ってこられたんです。実際に見た時は、胴体の大きさに一番驚きました。寸法を測った上で『骨格を入れないと自立しません』と伝えました。さらに強度を出すための緩着部分の修正指示、出荷する際にどうするのか? などの打合せを行いました。その後、2~3回ぐらい原型修正を行っていると思います」
大きいサイズとはいえ、製作の段取りはスタンダード&ミニサイズ同様、原型→ワックス変換→金型製作→成型と全く同じだ。
「ワックスについては、腕(L/R)と尾の3パーツがご指示通りに変換することが出来たので安心しました。金型は支給だったので、上がりを見るまでは不安でした。ここでは全7型の金型の条件設定に気を使いました。特に尻尾の金型に関しては、尻尾が金型に対して垂直に取り付けていたため、成型の条件出しがとても大変でした。成型職人もとても苦労していました。垂直ではなく、斜めに取り付けていたらもっとやり易くなったと思います」
そして完成した金型だが、初回のテストでは、うまく成型出来なかったという。
「反射板とアルミの取り付け場所を成型職人に指示しました。調整だけでも5日ほどかかりましたが、熱伝導対流調整がうまくいったので、その後は問題なく成型することが出来ました。新しい金型の条件出しはいつも大変ですが、今回はより一層大変でした」
金型の条件出しの大変さは、素人に知る由もないが、オビツ製作所の職人であり、百戦錬磨のベテランならでの発言はさすがだ! そんな試行錯誤を経てついにソフビ成型品が完成した。
「『ガラモン』自体が円形型なので、弊社の『タフネス』(救助訓練用マネキンの名称。1m65㎝くらいあり)より大きいと感じました。とりあえずこれで肩の荷が下りて一安心しました。後は本番ですね」
サイズが桁違いなだけに松井専務の上手く出来た手応えは容易に想像できる!
これにはパイドパイパー氏も「ソフビで成型されると、いい意味で荒さがあってレトロ感というか雰囲気が凄く出て、手作り感があると感じました」と手応えを語っている。




オビツ製作所にて。大きなローテーション成型機での作業の様子。大仕事だ!!

話が前後するが、実は原型完成後にNAGNAGNAG氏が急逝する。すでに原型は工場へ渡していたため、氏の手は離れていたが、その後どうするのか? 氏の意向として「サンプル展示はブルー未彩色のいわゆる『落書きカラー』で。『1期』は自分で塗りたい」など、いろいろ聞いていた赤司氏やパイドパイパー氏ほかスタッフは、出来る限りその想いを叶えるべく動き出す。大事な「1期」のカラーについて赤司氏は「パイドパイパーさんが全部聞いているということで色を作っています」と明かしてくれた。

ここでオリジナル「マルサンガラモン」のカラーについて復刻版を製作した西村氏(M1号代表)が解説。「『ガラモン』は最初、尻尾の動く『ゴジラブルー(=紺色)成型』で発売され、その後、量産金型になり濃いグリーン成型が『2期』。そして『3期』はその後ブルマァクまで続く豆色なグリーン成型なんですが、その狭間にレッド成型も発売されている。このレッド成型が完全に『3期』なのか『4期』なのか? 微妙なところですが生産数が少なかったらしく今、レアなんですよ。レッド成型が発売された時、もう『ウルトラマン』が始まってて、そこで『ガラモン』の着ぐるみを改造した『ピグモン』が登場するので、当時はレッド成型を『ピグモン』と認識した子供たちも多いはずなんです」とその歴史を紐解いてくれた!

そして肝心の「ジャイアントガラモン」の「1期」カラーは「レッド」に決定。このカラーを選んだことに関して、カラーサンプル担当のパイドパイパー氏は「これはNAGNAGNAGさんの意思です」と確認済み。
「以前、塗装の話を少し話した時『オリジナルでやりつつ、サイズが大きいなりにシャドーなど入れるとか?』と言ってましたけど、残念ながらその答えは聞けないので変にいじるより、大きいので影も落ちるし、充分に迫力は出ると思うので、そのままの塗装で行こうと思っています」と作業の方向性も固まっていた。

このプロジェクトで長期間「マルサンガラモン」と向き合ってきたパイドパイパー氏に、改めて「ガラモン」の造形について聞いてみると「NAGNAGNAGさんと作業させてもらい、色んな熱意……例えばビリケン商会で知られる原型師・ハマハヤオさんも『最終到達点はマルサンガラモン!』と発言していたと聞かされたりしました。その上で、この造形を見た時、尚更プレッシャーになりました。当時、造形した方は、仕事として作っている。いい意味で怪獣好きではないからこその造形ですね。好きな人が作ると、こうはならない……やはり到達点として凄い形なんだと思いました。まさにこの機会があってこそでしたね」と原型師ならではの視点で語ってくれた。だからこそNAGNAGNAG氏も「マルサンガラモン」にこだわったのだろう。赤司氏は語る。
「NAGNAGNAGさんは、M1号さんの『ジャイアントカネゴン』の横に置ける大きい『ガラモン』が欲しかったんだと思います。10年待っても次が出ないから自分で作るという衝動は、クリエイティブですよね」
さらに赤司氏は「彼は自分の感情にものすごく正直だし実直だし、気に入らなければ何がそこに乗っかっていようが全てやめちゃう人なんです。だからそこがわかってないと付き合えない。本当に作家さんでしたね」と氏の作家性にも言及してくれた。

そして誕生した「ジャイアントガラモン」! ここで改めてパイドパイパー氏、成型の松井常務にひと言いただいた。
パイドパイパー氏は「日本一……もしかしたら世界一大きなソフビ作品に関われたことは、凄くうれしいですし『NAGNAGNAGさんにも見てほしかった!』という思いは大きいです……メイドインジャパンというのもNAGNAGNAGさんの絶対的なこだわりでした。NAGNAGNAGさんあってこそのプロジェクトだったし、NAGNAGNAGさんの人との繋がりが無いと出来なかった。そこは本当に凄いです!」と興奮気味。
またオビツ製作所の松井専務は「玩具業界57年、数々の大きい商品を手掛けてきましたが、私が携わった中でも過去最大級のソフビとなりました。ぜひソフビファンの方の手に取っていただければ幸いです」とベテランならではのコメント。


「ジャイアンとガラモン」成型の功労者、オビツ製作所の松井静雄専務!

ちなみにパイドパイパー氏には、もうひとつ「完成した『ジャイアントガラモン』を見たら、NAGNAGNAG氏はなんて言うと思いますか?」という質問をぶつけると「たぶん『モノを見てもらえれば間違いないです!』だと思います!!」と即答してくれた! これは、それだけの想いで挑み、ほかで体験できない充実した時間を過ごせたということだろう。
また西村氏も完成した「ジャイアントガラモン」に関して「M1号が製作できなかったので『いいな、すごいな』と思います。ただどうすれば転倒させずにすむのか? そこは、ぜひ教えてもらいたいですね。出来が良くファンが多く、誰もが真似出来ないマルサンのスタンダード『ガラモン1期』をきちんと店頭用の大きさに引き伸ばしている、このプロジェクトはすごいと思います」と語る中「もしサンプルをもらえるなら自分用に塗ってみたいです(笑)」と聞き逃せないコメントも!? 西村氏の彩色! 想像するだけでワクワクする!
さらに「どういう仕様で発売するんですか? こんなにスタンダード然としてるので、ぜひ名入り袋のヘッダー閉じ仕様で発売してほしいですね。楽しみです。M1号も対抗して『ジャイアントカネゴン』を復活させようかな? 次の発売仕様はもう決まってますから!」と楽しそうな展開を語ってくれた。
最後に「ジャイアントガラモン」の今後の展開について赤司氏は「『1期』以降の流れは今の段階で発表しない方がネタとしてはおもしろいかもしれないですね」と話しつつ、NAGNAGNAG作品の今後について「妄想だけは死ぬほど聞いてて、『いつどこでどう出すか?』というところも細かい調整をしている最中です」と説明。
この「ジャイアントガラモン」も、もちろん楽しみだが、これを筆頭に、しばらくはNAGNAGNAG氏の意向を引き継いだ「NEW ART GUILD」の動向からも眼が離せそうにない!

2024年9月24日0時~2024年10月10日23時59分までMCT TOKYOにて受付の抽選販売(2025年1月発送予定)
https://mct.tokyo/products/4530956617671

問合せ先/メディコム・トイ ユーザーサポート
TEL.03-3460-7555(11時〜18時/土日祝を除く)

MCT TOKYOにて2024年9月24日0時~2024年10月10日23時59分受付の抽選販売(2025年1月発送予定)
ジャイアント「ガラモン」マルサン製拡大版 1200mm
頒布価格 990,000円(税込)
●全高約:1200mm
●企画協力:株式会社マルサン
●原型製作:パイドパイパー
©︎ 円谷プロ
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