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「NAGNAGNAG 1st EXHIBITION」01/初個展開催について・New Art Guild かれいどスコープ店長、赤司竜彦氏 Interview

生前、NAGNAGNAG氏が切望していた事のひとつだった初個展「NAGNAGNAG 1st EXHIBITION [-New Art Guild-]」が、2024年11月2日から3日間、東京・品川のKOWA ART GALLERYにて開催された。個展は氏の意思を継ぐNew Art Guildによって開催されたのだが、どのような経緯だったのか?
New Art Guildのメンバーでもあり、この個展に向けて先頭に立って誰よりも尽力したというショップ・かれいどスコープ店長氏と、開催を最大限バックアップしたというメディコム・トイの赤司竜彦氏(メディコム・トイ代表取締役社長)のおふたりにNew Art Guild結成の流れから個展開催、そして今後のNew Art Guildについてお話をうかがった。

かれいどスコープ店長(以下、店長) 発端はNAGNAGNAGさんの新作となる「ミューナ」をデビューさせたかったということでした。NAGNAGNAGさんのキャリアは、2008年にデビューした「暴力原人」がファンの認知だと思いますが、彼の中で次のステップとして「ミューナ」が見えていたんですね。それは「暴力原人」の進化なのか別路線なのか、今はもう分かりませんが……。

もともと「ミューナ」のデビューは、すでに素体も完成しており、2年くらい前から計画はあったという。ただし氏の望む形で、ということから氏は交流のあった現New Art Guildのメンバーたち、それぞれとディスカッションをしてデビューを模索するが、なかなか思う形にならなかった。それが昨年夏、手付かずのギャラリーをみつけ、ようやくここでデビューさせようということで落ち着いたのだ。


会場となったKOWA ART GALLERY


NAGNAGNAG氏の作品群がお出迎え


GALLERYで圧倒的な存在感を放つ「ミューナ」。巨大な作品は木彫「ミューナ」。接着剤など一切使わずに組んでいる。随所にNAGNAGNAG氏のアイデアが反映されているが、これを実現したのはメディコム・トイならでは


喫茶店で打合せの時、4KDO10氏の前で紙ナプキンに描かれたNAGNAGNAG氏の眼のアイデアメモ。それを4KDO10氏がデータ化した


「ミューナ」の絵は画家・山本彩乃氏による作品。赤司氏によると、NAGNAGNAG氏からアートフェア東京に「ミューナ」と一緒に出品したいという構想のもと紹介されたという。作品を預かり「いつ発表しようか……」と言っているうち、氏が亡くなってしまい公開が延期されていた。絵について「NAGNAGNAGさんは、何ひとつ注文を出していないはずです」とのこと。ただ赤司氏から唯一お願いしたことがあるという。山本氏が描く「ミューナ」は全て引きで作中に入っていたため「1枚でいいからアップの絵をください」ということだった。今回の個展でようやく日の目を見る事になった。

店長 NAGNAGNAGさんは、ブランディングを凄い気にする方でしたから望む形は非常に難しかったですね。ただそれを決めていく中で、昨年11月3日に亡くなってしまうんです。それがあまりにきつくて……。そして赤司社長の元に、NAGNAGNAGさんと親交のあったメンバーが集合して話をしたんです。そこで彼の遺志を継いで、彼の意向どおりに作品を世に送り出し、雁作物を排除していくよう動いていこうという話をしたんですね。そうして結成されたのが、New Art Guildなんです。

ここで改めてNew Art Guildのメンバーを紹介すると、ショップ・かれいどスコープ店長氏と赤司氏を筆頭に、氏のアシストを経て自らのブランドを立ち上げ、ソフビ製作をスタートさせたGORO氏、氏の大ファンで世界に氏の作品を広めたい4KDO10氏、近年、氏の主な作品で造形を担当するPied Piper氏、そして氏の大ファンであり、氏がアメリカ初上陸時にサポートして以来、主に海外プロモーションを手掛けて信頼されていた日本語ペラペラのイタリア人・spamper氏の6名だ。ちなみにspamper氏は、映画監督のティム・バートン氏に「暴力原人」を渡せ! という氏のムチャぶりとも言える指令を全く繋がりのない中、驚くべき行動力で実現させた強者なのだという!

店長 NAGNAGNAGさんは、ショップに以前から来店してくれていたらしいんですが、私は全く覚えてないんです。話すようになったのが昨年とか一昨年ぐらいからでした(笑)。私はインディーズソフビを全く知らず、ヴィンテージにしか興味がないから最初「NAGNAGNAG」で活動してると聞かされても、わからなかったんです。NAGNAGNAGさんってメチャクチャな方ですが、すごく体育会系で、私の方が年配で玩具業界的にも先輩だったので、私には礼儀正しかった。彼は私のショップでの接客対応など評価してくれたのか、今後も一緒にやりたいと言っていただいていましたね。

氏は近しくなった人物には、自らの高価な作品をプレゼントすることで人間性を図ろうとする傾向があった。作品目当てで多くの人が氏に寄ってくる中、かれいどスコープ店長氏が、全く氏の作品に興味を示さなかったことも、大きな信用になったようだ。またそんな氏の存在は、かれいどスコープ店長氏にとっても、次第に大きくなっていったらしい。

店長 実際、私の存在って彼にとって、いるといないとでは、彼の活動が大きく変わったぐらい特異点だったと思うんです。正直、何かを託すように亡くなった感じに捉えてしまうことがありましたね。

余談だが氏によって引き合わされたという、かれいどスコープ店長氏と赤司氏との初対面もユニークだった。

赤司竜彦(以下、赤司) NAGNAGNAGさんは、かれいどスコープさんには「赤司が、かれいどスコープさんに興味があります」って言い、私には「かれいどスコープさんが、赤司に興味があると言ってる」とウソをついてたんです(笑)。

店長 最初、お会いした時「話が違う……」と瞬時に悟りましたが、その時「『赤木春恵三輪車』を発売できないか? 『1期』には割烹着を着せたい!」という打合せを夜中の10時30分ぐらいにメディコム・トイでしていて、ほんと凄いおもしろかったんです。NAGNAGNAGさんがメチャクチャなのは知ってますが、赤司社長が真面目に応対しているのが最高で、あれは忘れられない(笑)。

だがふたりが出会った、その最高だった日から、2~3ヶ月後に氏は急逝する……。

赤司 多分、彼なりに自分の繋がってきた点をひとつの線にしたかったんだろうと思いましたね。ただ繋ぐ前にいなくなってしまうので残ったメンバーで想像して、そこを繋いでいくしかないなっていう。そんな感じでしたね。

店長 NAGNAGNAG氏を中心に、彼がいなければ繋がらなかった6人が、彼の亡き後も繋がり続けることが1番、彼が望むことでは? という思いがあります。NAGNAGNAGさんが、何をやりたかったのか? それは赤司さんを筆頭に、造形を担当するPied Piperさんなど、New Art Guildのメンバーが知ってましたから。

この6人によって氏の遺志を継ぐため、必然的にNew Art Guildが発足。氏の1周忌となる11月3日に「何か?」ということから氏が望んでいた「ミューナ」のデビューを「エキシビションでやろう!」ということになる。

展示コンセプトは、NAGNAGNAG氏の関わった作品を全てを出すこと! 1番は「ミューナ」のデビューで、いい場所に展示。ギャラリーの奥へ進むと氏のデビュー作となる「暴力原人」の変遷がある。この「暴力原人」について、かれいどスコープ店長氏によれば「未開封はなかなか残ってないので、ヘッダーまで展示出来たのは良かったと思います。これはGOROさんが言っていたんですが、最初は予算が無いからヘッダーが地味。予算をかけられるようになると、だんだんヘッダーが大きくなってイラストになったり、シールが付属したりする」と解説してくれた。


氏のデビュー作「暴力原人」コレクション。手前には氏が彩色を手掛けたコムロタカヒロ氏の「Magic dragon」も展示されていた


ギャラリーに入って、右のスペースへ進むとメディコム・トイと展開してきた「ゴジラ」「ヘドラ」を始め「ジラース」などの作品が並ぶ

店長 メディコム・トイさんから発売された「ゴジラ」は、世界中で発売された「ゴジラ」の中でも1番需要が高いと思います。あのボリューム、あの造形というのが、なぜか「ゴジラ」ファンの心を離さない。この個展でのファンの熱気を見ると、これが全てなんだろうと思います。私のショップでインディーズのソフビについて、ファンがさまざまにディスカッションしていますが、知り合いとか関係なく、NAGNAGNAGさんの作品が1番クオリティが高いと思いますね。もうおもちゃの域を出てるし、これだけ需要があるのは凄いこと。今回はNAGNAGNAGさん作品の鑑定もしました。NAGNAGNAGさんは塗装において多分ソフビ業界では随一の腕前なので、ひと眼でわかるんです。良かれ悪しかれ彼は、おもちゃの人ではなく本当にアーティストだったと思います。

このNew Art Guildの活動は、新たなNAGNAGNAGフォロワーをも生み出しているようだ。

店長 知り合いのガレージキット界の重鎮メーカーの方が、この前、私のショップにいらして『亡くなった方の意志をこれだけの人が集まって承継して新作の発表や個展を開催したりするのは聞いたことない』と言われました。その方は、New Art Guildの活動で、逆にNAGNAGNAGさんに興味を持ってくれたんですね。ただインディーズメーカーの一人が亡くなったという事より、メディコム・トイさんで、ある程度進めてきた作品があって、先行投資されていること事態、普通はない……それはたまたまだったと思います。メディコム・トイさんと少しずつ形にしてきた作品を残したまま、突然いなくなってしまった彼の作品は当然世に送り出していくべきだと思います。その思いを持った人達が結成したのがNew Art Guildですし、NAGNAGNAGさんの人柄や求心力がそうさせているのだと思います。NAGNAGNAGさんの人柄と偶然が、New Art Guild という人の輪を生み、赤司社長のバックアップで思いが形になっていく。今回の初個展もNAGNAGNAGさんの最大の思いのひとつだし、あれだけのアーカイブ展示が可能だったのは、赤司社長のご尽力あってなんです。

赤司 今回はかれいどスコープさんの旗振りで始まった企画なので、私はご協力させていただいているだけです。NAGNAGNAGさんは、いろんな世界観をお持ちだった気がします。きっとメンバーそれぞれとやりたかったこと、少しずつ違っていて、それは彼の多面性のような気がするんですよ。

おふたりにNAGNAGNAG氏へ、もし今回の初個展開催について伝えるとしたらなんと伝えたいか聞いてみた。

店長 一連の流れを全部、NAGNAGNAGさんが見てるとしたら100の余力の中、100はやりました。「これ以上はできないよねNAGNAGNAGさん」って言ったら「そうですね」って言うと思います。

赤司 Pied Piperさんに話したんですが、今回の個展はかれいどスコープさんが「番場蛮」で、私が「八幡太郎平」かなって(笑)。どんな魔球が来ても受ける! 今回のテーマはそれだったんで、ほぼ球は取れたかな。という感じだったですね。
(※赤司氏の例えについては、Wikiで『侍ジャイアンツ』参照/笑)


イラスト/エビ沢キヨミ


この作品は? 今後のアナウンスを待ちたい


上から NAGNAGNAG 氏によるワンオフ「ザンジンガン -GENESIS-(NAGNAGNAG 塗装)」、GORO 氏によるワンオフ「ザンジンガン ( 破壊神 Ver.) 」、大人気作の最新モデル「グラスライザー ( 装甲騎 Ver.) 」、「ザンジンガン ( 超時空 Ver.)」

赤司 常々「NAGNAGNAGさんは、本当にしょうがねぇな」っていうどっか憎めない感じで、みなさんやってますからね。逆にNAGNAGNAGさんの司令系統の下にいた人たちはやらないと呪われる(笑)。

店長 変な話、生きてる時は気まぐれすぎて「以前、これでいいって言ったのに、なぜダメなんですか!」「なんとなくだよ!」みたいな人だったんですが、いなくなったことによって価値が固定化されてしまう。つまり心の中のNAGNAGNAGさんは誤魔化せないんです。GOROさんも「このぐらいでいいか……と思っても何か絶対言われるので怖い」と言っていましたから。

あとかれいどスコープ店長氏だが、この個展開催について実は熱い想いを秘めていたことも明かしてくれた。

店長 この取材で私が言いたいのは、めんどくさがらず行きたいとこは行くし、やりたいことはやる。誰の命令でもなく好きになったモノ、自分の感性で選んだことに関しては、自信を持って楽しむってことをしてほしいんです。いつどうなるかわかんないことは、NAGNAGNAGさんが証明してくれましたから。今回のエキシビションでは、そういう部分を少しでも感じてもらえればと思っているんです。

イラスト/エビ沢キヨミ

ちなみにNew Art Guildの今後については?

店長 NAGNAGNAGさんの遺志を継いでNew Art Guildをやっていますが、ここでの本当のファウンダーは、私たちではなくてNAGNAGNAGさんなんだろうと思います。彼の遺志を継ぐ活動として、手掛けていた作品のリリースをこの一周忌を機に次々と予定しています。人間、何があるかわからないですから、出せるに時に発表しておかないと。唯一惜しむことは、NAGNAGNAGさんに見せてやりたかったという。

最後にこの個展開催について赤司氏にまとめたもらった。

赤司 本当にかれいどスコープさんの旗振りでNew Art Guildのメンバーみんなが「NAGNAGNAGさんの命日にやろう」といってくれたんです。みなさんとの最初の結束かなと思えて、すごくうれしかったですね。利害関係じゃないんですよ、この団体って。「もうしょうがねーなー」って。なんかNAGNAGNAGさんの仕事っていつも「しょうがねーなー」って言いながらやってたなと思うんで「あっ、だったらこれがいいのかな」。そんな感じです。

今回、かれいどスコープ店長氏、赤司氏のお話を聞いて、この「NAGNAGNAG 1st EXHIBITION [-New Art Guild-]」は、決して氏の回顧展ではなく、今後に繋がる通過点であることを強く印象付けられた。こんな活動が可能な作家は、とても希少な存在であることは間違いない。どうやらこれからもNew Art Guildの活動は注目しておいた方がよさそうだ。


ローブローアート運動の先駆者クリス・クーパー氏(Coop氏)の画集『Idle Hands: The Art of Coop』でも氏のことが紹介されている

問合せ先/New Art Guild Instagram @new_art_guild_DM
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