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八面六臂の大活躍!多くのシリーズを手がける鬼才原型師・あべ♨とおる氏とはどんな人物か?

現在のソフビ界で恐らく誰よりも数多くの原型を制作しているのがあべ♨とおる氏だ! 2010年にソフビ界に突如現れ、2014年以降、続々とシリーズを展開! この年以降の制作数は、2010年~2013年までの総数を上回る勢い! 原型師としてはもちろん、個人ブランド・麗しのパチ部屋の未来を見据え、現行ソフビ界に個人メーカーとして新たなやり方を問いかけようとするなど、その行動力は半端ない。そんなあべ氏の素顔に迫ってみた! 「あべ♨︎とおる氏の超進化原型コレクションPart1」「あべ♨︎とおる氏の超進化原型コレクションPart2」とあわせてご覧ください!

1.プロフィールについて

―本格的に活動を開始された年を教えて下さい。
2010年に発売された怪獣軒さんのシルバー仮面からです。

―最近なんですね。でも造型は、それ以前よりされていたのでしょうか?
いえ、シルバー仮面以前は全く……もう数十年……。高校の時にガレージキットを作って以来、造型はしてないんですよ(笑)。

―それがどんな理由で造型の道へ進むことになったのでしょう?
20代の頃、マンガ家として商業誌デビューし、30代で雑誌連載を持てたんです。ただ、時代が“萌え”全盛で、商業誌は全てその流れだったんですね。私は、もともとパチモノロボットなどが好きなので、“萌え”に全く興味がない。なんかプロのマンガ家としての限界を感じてしまったんですね。そこで、描きたい内容で勝負できる同人誌の道へ進むんですが、結構上手くいってしまったんです(笑)。今、お付き合いのある怪獣少女さんも、私の同人誌のファンだったんです。「一緒に何か出来ませんか?」という話になり、一緒に同人誌を作ったんです。その時、スタッフに造型をやる方がいて、本の裏表紙に使用するということで、私のキャラを立体化してくれたんです。それを見て「おもしろいな!」とムクムクと造型欲がわき上がってきました。個人的にパチモノロボットを作って周囲に見せたら「出来るね!」という反応で、ちょうど怪獣少女さんのお知り合いの怪獣軒さんが原型師を探しているということで紹介してもらったんです。

―興味を持ったら出来てしまったという流れは凄いですね!
一応、プロのマンガ家ですから。「表現とはこういうもの!」という基本的な学習が出来ていたからだと思います。だからといってマンガ家さん全員が立体を出来るかというと、2Dの絵は省略出来るし違うと思います。逆に立体をやられている方が、イラストなど描ける人は多いですね。

―とはいえ、それは「出来た人」の言い方ですよ。やはり凄いと思います。その時、現在のようなソフビ界のことはご存知だったんですか?
全く知りませんでした。マルサンやブルマァクなどの丸みのあるソフビのスタイルは好きでしたけど、私自身はコレクターではなかったですね。

―初めての原型作業はスムーズにいきましたか?
実は1番最初は、シルバー仮面ではなくレッドバロンだったんです。ソフビの場合、成型されると何センチか引けるので、原型はやや大きく作らないといけないんです。ところが当時は、そんなこと全然解らないので、全て手探りでした。造型はファンド(石粉粘度)を使っていますが、これだと乾くのに時間がかかるんです。もっと早く作れないなと素材を探して、焼くと固まる粘土・スカルピーを知って「これはいい!」って(笑)。レッドバロンを作りながら、スカルピーの特性を学習しました。その学習を活かして製作したのがシルバー仮面だったんです。そんな原型の次は、ワックスに置き換える作業ですが、もちろん全然解りません。怪獣軒さんがワックスの経験があったので教えてもらいました。またソフビの場合、特にヒーローは彩色マスクが絶対に必要ですよね。でも彩色マスクは制作費がかかる。予算をかけれないので、いろんな素材で作れないかと試行錯誤し、ある方法を見つけました。試しにレッドバロンで使用してみたらバッチリでしたね(笑)。

―原型、ワックス、彩色マスクに至るまで短期間で学習されたんですね。あべさんといえば怪獣少女、麗しのパチ部屋、怪獣軒、メディコム・トイさんなどで活躍されていますが、それぞれの違いってありますか?
怪獣少女と麗しのパチ部屋というのはサークルです。怪獣少女では原型協力で、麗しのパチ部屋は、私個人のサークルなんです。もともと活動していたマンガ同人誌とは別に、パチモノロボット資料集などをやりたかったので別に立ち上げたんです。マンガ同人誌は活動休止状態なので、今は麗しのパチ部屋1本ですね。

―なるほど。怪獣少女さんと怪獣軒さんとの違いは何ですか?
怪獣軒さんはメーカーなので一般版権がとれます。怪獣少女さんはサークルなので、WFの当日版権で怪獣軒では出来ないモノをやるという感じですね。

―メディコム・トイさんとの関係ですが、きっかけはなんだったんですか?
あるイベントで赤司(竜彦氏/メディコム・トイ代表取締役社長)さんが、怪獣軒のキルギス星人を購入してくれて、そこで初めてお話しさせていただいたのがきっかけでした。そこから[PHANTOM GIFT]の台紙イラスト、次にスペクトルマンパイロット版の原型を依頼されたんです。

―メディコム・トイさんとは[ダイナミックヒーローズ]に始まり、今では[ダイナマイトコレクション]、[タツノコジェネレーション]と続々スタートしています。これは、全てあべさんからの企画なんですか? それぞれのシリーズについての思いを聞かせて下さい。
[ダイナミックヒーローズ]と[タツノコジェネレーション]はやりたくて提案しました。[ダイナマイトコレクション]は「[ダイナミックヒーローズ]の成績がいいので、このポテンシャルでもう少し幅を広げませんか?」とメディコム・トイさんから提案されてスタートしたんです。メディコム・トイさんもこれによって、色んなライセンス元さんと新規だったり、途絶えていたけど再びお付き合いが始まったりしています。この動きによって「次にこれをやりたい!」というメーカーさんが出てきた時、凄くやりやすい状況にはなったと思いますね。今後もみなさんが驚くようなライセンス元さんが出てきますから(笑)。

―また新たにタカトクロバ社さんと[超常合体サージェンガー3]もスタートしました。これはどのような経緯でスタートしたのでしょう?
私が趣味でTwitterに上げているパチ画像などをご存知で「パチロボットのシリーズをやりたい」と依頼してくれたんです。ただ最初は、どういうパチロボを求めているのか解らなくて……。パチロボも世代によって色々イメージが違うんですね。そこで打合せした時、5時間位雑談する中で、
どういうパチロボを求めているのか会話の中から探っていったんですよ(笑)。

―えー!? ただでさえ大忙しの中、よくそこまでのバイタリティがありましたね!
私もこのシリーズは楽しいからいいんですけどね。依頼限定は、依頼があやふやだと出来ませんから、依頼する時は、惜しみなく要求してほしいんです。出し惜しみされてしまうと違うモノになってしまいますからね。

2.原型のこだわりと個性についての持論

―レトロなフォルムのソフビ原型の造型で、気をつけていることは何かありますか?
私の感覚ですが「子供の時にマルサンやブルマァクのソフビで遊んでいた時、脳内でもっとかっこ良く変換していたイメージ」です。丸みや可愛いフォルムは好きでしたが、劇中の怪獣と似てない不満はありましたから。それを頭の中でかっこ良くリファインしたモノを再現するというのが基本にあるだけですね。だからイメージ出来るモノについては、基本的にどんなキャラでも造型しますが、逆にイメージ出来ないモノはで無理なんです(笑)。

――あべさんが考えるレトロなフォルムの定義はありますか?
改まって聞かれると決まった定義はないですね。やはりイメージ出来るかどうかが全てです。マルサンやブルマァクって世代的には私よりやや上なんですよ。でもあのフォルムが好きなのは、日本人の感性に合った土着的なセンスだからだと思うんです。事前に情報がなくても見た瞬間すごく懐かしさを感じる。仲間とよく話すんですが、リアルなモノはひとつ出来が良いモノがあったらそれで充分だけど、レトロなフォルムはその逆で、幅があるので表現の場としては最高だと思っています。

――確かにその通りですね。依頼原型と、自分で作りたいものの原型の場合、何か気持ち的な違いがあったりしますか?
どちらも「その先の買ってくれるお客さんが喜んでくれてこそ」だと思うので、そういう意味で違いは特にないです。

――その視点は、プロのマンガ家を経験していればこそという気がします。
それは凄くあると思います。あとマンガでも立体物でも作家の個性ってあるじゃないですか? 私は「自分の個性はこれ!」と示せる個性はニセ物だと思っているんです。真の個性とは、自分の経験値に応じて、勝手ににじみ出てきてしまうモノ。それを自分自身が信じられるかどうかだと思っています。私はそれを信じているので、自分の個性や造型の際のアレンジなど、正直あまり考えたことがないんですね。逆に考えてしまうとダメだと思っているぐらいです。またマンガ家としてのデビュー、同人誌への移行、造型のスタートなど、何か行動を起こす時、いつも3年をひとつの区切りと考えています。私の場合、いずれも3年である程度、芽が出ましたが、逆に3年経っても芽が出ない場合「それは単にあなたの個性が誰にも好かれなかっただけ」と思うんです。

――実に厳しいですがその通りだと思います。以前、赤司さんのインタビューで 「あべさんの原型は進化する」とおっしゃられていました。そう言われることについていかがですか?
恥ずかしいです。個人的には以前より良いものを作るだけです(笑)。毎回どれだけ原型を早く仕上げることができるのか? という事はいつも研究しながら制作していますから。

――本当に数を作られている印象ですが、原型でご本人的に変わったと感じる事などありますか?
実は、2014年頭ごろ行き詰まりを感じたんです。原型に関して、[ダイナミックヒーローズ]で自分が作りたかった鋼鉄ジーグとグレンダイザーの後、メディコム・トイさんの提案でパーンサロイド、スペイザーと制作しました。でもこの2体は変化球ですよね。もちろんこの提案自体にそのような意味は無かったと思うのですが、私的に「もう変化球を使わないといけないのか? これ以上、王道で何か新しいモノを作ることが出来ないのか? 自分自身の原型を成長させることは出来ないのか?」と感じてしまったんです。大きなキーポイントになったのが2014年の夏のワンダーフェスティバルで作ったポセイドンでした。始めて私の原型のアンチだった人たちが「素晴らしい!」と言ってくれて、自分の原型が何かこうひとつ抜けたと感じました。例えて言うと、これまでの自分的なレトロは、世代的に[キングザウルス]などのポピー(80年代に活躍するおもちゃメーカー)のデフォルメで、「自分的に凄いモノが出来た! みなさんどうですか?」と披露していた感じでした。ところがポセイドンで始めて60年代~70年代的なもっと幅広いレトロから新しい世代のファンが満足する視点で造型出来た感じなんです。

――ちなみにそれは具体的にどういうことですか?
誤解を恐れずに言うと「ちょっと手を抜く」ということです。「いい加減に作る」ということではなく、肩の力を抜いて作る感じ。これは道具を使うときの力加減に凄く影響があったと思います。それまで道具は、力を込めて使っていましたから。そこで力を抜くと「こういうことが出来るのか!」ということを理解出来た。そこから2014年末は、レッドバロン、マッハバロン、ゲッター3、レッドタイガー、ランボルジャイアント、吉本のソフビを3つを同時進行して、しんどかったのですが、さらに自分の中でこの技術を進化させられたと感じています。

3.趣味趣向などについてお聞き出来ればと思います。

――子供の頃好きだった作品の思い出などありましたら聞かせて下さい。またそれが今の自分の指針になっていたりするんでしょうか?
これはよく思うことなんですが、例えば子供の時に見たマンガや映画が、その後の自分にとっての人生の指針なっていると思う人生なんて「捨ててしまえ!」と思っています(笑)。作品はあくまで娯楽です。感動するのはいいけど、それは人生の指針にはならない。本当の指針というのは、人と会って話し、自分で考えながら作っていくものだと思っています。ただ作品ならそれを完成させるまでに、どれだけ多くの人たちが情熱をかけたのか? を調べたり勝手に創造したりするのは昔から好きでしたね。

――特に作品という部分での影響はない感じですか?
作品からの影響はないですが、子供の時はなんでも見ていました。中でも『レインボーマン』が大好きだったんです。凄く土着的ですよね。そこに惹かれたんだと思います。そう考えると育った環境……貧乏長屋暮らしだったので、長屋の奥にある空き家などの日本的な退廃的な風景からの影響は大きかったと思いますね。

――パチモノロボット好きなどマニアックな部分への目覚めは、いつ頃なんですか?
大人になってからです。子供の頃や学生時代は、田舎だったので慢性的に情報不足なので大した知識はありませんでしたから(笑)。

4.作品への思い出について

――振り返ってみて1番、印象に残っている作品はどれですか?
もちろん全部ひとつひとつ思い出は多いです。最近、技術的な改革となったポセイドンもそうだし、その後にやり直したレッドバロンやマッハバロン、鉄人28号も自分の方向性の幅を広げることが出来ました。沢山ありますがあえてひとつだと、帰ってきたウルトラマンですね。企画の発端は、スーツアクターである、きくち英一さんとお知り合いになたことでした。「何か出来ないか?」という話になった時、帰ってきたウルトラマンだったんです。ただ実現するまで1年ほどかりました。というのも以前から発売元である怪獣軒のメーカーとして体力が無さ過ぎるとジレンマを感じていました。そこで以前、例えばアストロガンガーは、全て私が彩色していましたが、これだと供給が追いつかず「怪獣軒のソフビは買えない」と客離れが起こる。そこで、きちんとマスクを作って量産体制を作ろうと提案したんです。ただこの場合、凝った彩色を施す重塗装版が思った通りの仕上がりにならない問題が出てきた。そこで私が彩色をやると今までと同じです。それと同時に私が田舎で通っていた模型屋に久しぶりに顔を出した時、言われた言葉が印象的で「君たちは都会で活動し、そこへ来れるお客さんだけに売っている。もっと売りたいのに、地方のファンをほっといて数が出るわけないだろう」と。まさにその通りなんですね。そこで帰ってきたウルトラマンから怪獣軒さんに販売に関して全て私に任せてほしいとお願いしました。
まずきくち英一さんのサイン入り版を、イベントと通販で同時に発売しました。通販もこれまでは1回で売っていましたが、1回だと買えないファンが出てきて、やはり客離れに繋がり次回作の数字が落ちてしまうんですね。ウルトラセブンの次に発売したイカルス星人がまさにそういう結果だったんです。そこで今回、発売時期を1ヶ月ごと3回にわけたんです。そうすると私が彩色する負担も1回ごとに軽くなるし、地方のファンもお金のあるタイミングで買う事が出来ますから。
怪獣軒さんには当初、1回で売ったウルトラセブンの方が売り上げが良かったと言われましたが、「とりあえず結果が出るまで3ヶ月待ってほしい」とお願いしました。すると徐々に売り上げが出てきて、思っていた以上の数を発売することが出来たし、きちんと利益も出せたんです。地方のファンからも「イベントに行けないのに、同じモノを手に入れる事が出来ました!」と感謝の言葉を頂けました。そういう経緯から帰ってきたウルトラマンは、生産と販売体制を一新したことで、ビジネスモデルの成功例を作れたのでとても重要な作品になったと思います。その後に発売したウルトラマンもすごく成績が良いですから。

4.今後の予定について

――メディコム・トイさん、怪獣軒さん、怪獣少女さん、タカトクロバ社さん、麗しのパチ部屋さんと大活躍ですね。
依頼されればやるだけの話ですね。麗しのパチ部屋は一旦、活動停止してリニューアルしようと考えています。これまでの実績で、様々なライセンス元さんとお話しする機会が増えて色んな作品の許諾をいただけそうなんです。そこで麗しのパチ部屋がサークルのままではいけませんから、きちんとメーカーという形にしようと模索している所なんです。

――え!? 麗しのパチ部屋でライセンスモノですか! それはほかメーカーさんとの関係は大丈夫なんですか?
すでにお話しさせていただいているんですが「絶対にやらない所をやります!」とお伝えしていますよ。例えばメディコム・トイさんは、鋼鉄ジーグは発売しても劇中登場するサイボーグは出来ないでしょ? 解り易く言うとメジャーなキャラクターはメディコム・トイさん。ちょっとマイナーでも個人だったら小回りが利くので出来ますから、その間を埋めるのが麗しのパチ部屋ということなんです。

――ちなみに名前は、麗しのパチ部屋のままですか?
いえ、さすがにそののままでは、どうかな? と思うのでメーカー名は新たに考えます。

――そのプランは、現在のソフビ業界のあり方を見直すきっかけになりそうですね。
そうなるようがんばりたいです。最大のライバルは、メディコム・トイで仕事をしている私であり、メディコム・トイで仕事する自分を潰してやる! という意気込みなんです。ただこれを言うと赤司さんがちょっと悲しそうな顔をされるんですよね(笑)。ほかの個メーカーさんが、どのように考えているか解りませんが、やはりライセンスモノをがんばらないとソフビ業界の底上げにならないと思います。ライセンスモノは業界を引っ張る原動力になるし、そこで始めてソフビ知ってもらえるキッケになり易いですから。

――確かに! ちなみに麗しのパチ部屋で展開していたオリジナルはどうですか?
それもやっていきます。最近はいろいろ立て込んで、手が回っていない状態でしたが既に新作も準備しています。ただオリジナルの展開はあくまで趣味+αの部分で、やはり1番大事なの原型師として食べていくため、お仕事をしなければならないということです。原型師としてのお仕事という部分は、今後も変わりはありません。勘違いしてもらっては困るんですがフリーランスですから、いただいた仕事をこなして結果が出ないと次はないんですよ。そのためには何があっても、まず原型師としての仕事は優先します。そこはプロなんで(笑)。
――期待しています! 本日はありがとうございました。
(5月21日/中野の某喫茶店にて収録)

八面六臂の大活躍!多くのシリーズを手がける鬼才原型師・あべ♨とおる氏とはどんな人物か?
↑One up.中野プロードウェイ店にて、サージェン1とあべ♨とおる氏。ちなみにあべ氏の「♨」マークは、マンガ家デビューの時、マンガの師匠につけてもらったモノ。

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