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「エビ沢キヨミのそふび道」を終えて改めて奇才原型師あべ♨︎とおる氏を紹介! ビックワンクラフト代表・あべ♨︎とおる氏Interview

あべ氏とエビキヨ。手にするのはあべ氏とエビキヨが手がけた原型だ!
↑あべ氏とエビキヨ。手にするのはあべ氏とエビキヨが手がけた原型だ!

大好評「エビ沢キヨミのそふび道 立志編」の「あべ♨︎とおる氏(File:22~File:24)」はいかがでしたか? 原型素人だったにも関わらず、その研究熱心さから瞬く間にトップ原型師として大活躍! その勢いのまま2016年にはメーカーとしてビックワンクラフトを起業し、新たなコンセプトでソフビ界に挑んだ[プリケッツ]が大ブレイク! ここでは、まさに息つく間もなくソフビ界を駆け続けるあべ氏の奇才原型師のキャリアを改めて振り返って頂きました。今後の展開も包み隠さず語っていただいています。ますます躍進するビックワンクラフト・あべ♨︎とおる氏への期待感しかないインタビューをご確認下さい! ちなみにあべ氏が製作した2015年までの過去作品は「コレクション Prat1」 、「コレクション Prat2」を参照!!
インタビュアー■『そふび道』

1/プロフィールについて

――本格的に活動を開始された年を教えて下さい。
2010年に発売された怪獣軒さんの「シルバー仮面」からです。
――造型は、それ以前よりされていたのでしょうか?
いえ「シルバー仮面」以前は全く……高校の時にガレージキットを作って以来、造型はしてないんですよ(笑)。
――それがどんな理由で造型の道へ進むことになったのでしょう?
20代の頃、マンガ家として商業誌デビューし、30代で雑誌連載を持てたんです。ただ時代が“萌え”全盛で、商業誌は全てそれ一色……一方の私はもともとパチモノロボットなどが好きなので“萌え”に全く興味がない。プロのマンガ家として限界を感じたんです。そこで自分が描きたい内容で勝負が出来る同人誌へ進むんですが、それが結構上手くいってしまって(笑)。今、お付き合いのあるサークルの怪獣少女さんも私の同人誌のファンだったんです。「何か出来ませんか?」という話になり、一緒に同人誌を作りました。その時、スタッフに造型経験者がいて、本の裏表紙で使おうと私のキャラクターを立体化してくれたんです。それを見たら「おもしろい!」ってムクムク造型欲がわき上がってきたんです。個人的にパチモノロボットを作って周囲に見せたら「出来る!」という反応で、タイミングよく怪獣少女さんのお知り合いだったメーカー・怪獣軒さんが「原型師を探している」ということで紹介してもらったのがきっかけなんです。
――興味を持ったら出来てしまったという流れは凄いですね!
一応、プロのマンガ家ですから「表現とはこういうモノ!」という基本的な学習が出来ていたためだと思います。かといってマンガ家全員、立体が出来るかというと絵と違うから決してそうではないと思います。逆に立体をされている方でイラストを描ける人は多いですね。
――とはいえ、それは「出来た人」の言い方でやはり凄いと思います。その時、現在のようなソフビ界のことはご存知だったんですか?
マルサンやブルマァクなど丸みのあるソフビのスタイルは好きでしたけど、私自身はコレクターではなかったですから全く知りませんでした。
――初めての原型作業はスムーズにいきましたか?
実は1番最初の原型は「シルバー仮面」ではなく「レッドバロン」なんです。ソフビの場合、成型されると何cmか縮小するから原型はやや大きく作らないといけない。ところが当時は、全然知らないから全て手探りでした。最初、造型はファンド(石粉粘度)でしたが乾くのに時間がかかるので色々探して焼くと固まるスカルピーに辿り着いた。「レッドバロン」を作りながらスカルピーの特性を学習し、その経験を活かして製作したのが「シルバー仮面」だったんです。原型の次はワックスへ置き換える作業ですが、もちろんそれも全然解らない。怪獣軒さんがワックス経験があったので教えてもらいました。またソフビの場合、特にヒーローは彩色マスクが絶対に必要です。でも彩色マスクは制作費がかかる。予算がないので「色んな素材で作れないか?」と試行錯誤し、ある方法を見つけました。試しに「レッドバロン」で使用してみたらバッチリでしたよ(笑)。

あべ氏の商業誌マンガ作品『マンゲリラ』
↑あべ氏の商業誌マンガ作品『マンゲリラ』

左が原型師デビュー作となった「シルバー仮面」。右は初めて手がけた商業原型「レッドバロン」だ
↑左が原型師デビュー作となった「シルバー仮面」。右は初めて手がけた商業原型「レッドバロン」だ

2/各メーカー&サークルで大活躍

――原型、ワックス、彩色マスクに至るまで短期間で学習されたんですね。ちなみに2010年の原型デビュー以来、2015年ぐらいまであべさんは怪獣少女さん、麗しのパチ部屋さん、怪獣軒さん、メディコム・トイさんなどで八面六臂の活躍でした。
麗しのパチ部屋は私個人のサークルで、これはもともと活動していたマンガ同人誌とは別にパチモノロボット資料集などをまとめたかったから自分で立ち上げたんです。怪獣軒さんはメーカーだから一般版権がとれますし、怪獣少女さんは原型協力しているサークルで「WF」の当日版権をメインに怪獣軒さんでは出来ないキャラクターをやるという感じでした。メディコム・トイさんは、あるイベントで赤司(竜彦氏/メディコム・トイ代表取締役社長)さんが2012年に発売した怪獣軒の「キルギス星人」を購入してくれたんです。そこで初めてお話しさせていただいてから[PHANTOM GIFT]の台紙イラストや2013年に発売された「スペクトルマン(パイロット版)」の原型を依頼されたんです。
――メディコム・トイさんとはその後2013年より[ダイナミックヒーローズ]、2014年より[ダイナマイトコレクション]、2015年より[タツノコジェネレーション]と続々シリーズをスタートさせました。これは全てあべさんの企画なんですか?
[ダイナミックヒーローズ]と[タツノコジェネレーション]は、自分からやりたくて提案しました。[ダイナマイトコレクション]は[ダイナミックヒーローズ]の成績がいいので、「もう少し幅を広げませんか?」と提案されてスタートしたんです。メディコム・トイさんもこのシリーズによって、新たな版権元さんが増えたり、ちょっと途絶えていたけど再びお付き合いが始まったりがあったみたいですね。
――そんな中、ビックワンクラフトを起業されましたね。
2015年ごろに、それまでメディコム・トイさん、怪獣軒さんでの実績から様々な版権元さんとお話しする機会が増えて「もし会社にされるなら版権を出すので、ぜひやってください」と言っていただけたんです。そこから会社化を模索し始めたんです。

原型師デビュー以後、あべ氏が原型を手がけたソフビたち
↑原型師デビュー以後、あべ氏が原型を手がけたソフビたち

3/ビックワンクラフトの起業!

――2016年に起業されるわけですが、改めて設立の動機と経緯を教えて下さい。
大きな転機のひとつは怪獣軒さんの存在でした。この時期に「もう今までのようなプロデュースが困難で、現在のペースで発売し続けることが出来ない」と言われてしまったんです。当初、私が怪獣軒さんを引継ぐということだったんですが諸事情により頓挫してしまった。結局、自分で造型した金型を持って怪獣軒さんから独立することになりました。ほかにもうひとつ後押ししてくれる某メーカーさんの存在がありました。その方は、別分野で新たに事業を立ち上げられてて「あべさんは原型師として売れて沢山作っているので、きちんと社会人として社会に奉仕出来るような一員になった方がいい。そのために会社にしたらどうですか?」って意見してくれたんです。そんな怪獣軒さんの件、某メーカーさんの意見、そして各版権元さんの好反応という3つの状況が上手く重なって決断したんですね。
――会社になる事でどのようなメリットがあるのか教えて下さい。
メリットは、ひとつしかなくて確実に版権元から許諾をいただけるということですね。ここで勘違いして欲しくないのは、会社にすれば必ず版権が許諾されるわけではないということ。例えば、ある版権元さんの作品をソフビ化したくても、何の実績もない場合、いくら「腕の良い原型師がいる」と説明しても版権元さんには通用しません。順番としては売り上げなどの実績を示すことが出来るのかどうか? なんです。そういう意味では私の場合、メディコム・トイさんや怪獣軒さんで実績を積ませてもらったことは本当にありがたかったですね。これも勘違いしてもらっては困るんですが、基本的に私たちが作るレトロタイプのソフビを許可する版権元って1部の理解のある会社以外ほとんどないです。社員さんの世代も変わるので、もう1960年~1970年代のソフビを知らない方が権利関係を担当したりしています。そんな社員の方々が会議で「ウチのキャラクターをレトロタイプのソフビにして何の意味がある?」と言われたらお終いなんですよ。近年、色んな版権元に対して、風穴を開けてくれたのがメディコム・トイさんの権利関係スタッフと言っても過言ではないと思います。そのおかげで各社の理解が深まり、初めて色んな作品のレトロタイプへの道が開けていますから。
ーーなるほど! ちなみに社名のビックワンクラフトですが、これにした理由は?
1番の理由は会社の所在地が東京だと「良い社名」は、全てといっていいほど使われています(笑)。そのためまず使える社名を探す所からのスタートでした。まず「1」という数字を入れたかったんです。生活の中で大事な1体、それぞれの心の中にある大きなひとつという意味で「ビックワン」。続く「クラフト」はソフビから少し離れたネーミングですが、理由は単純で今でもたまにイラスト仕事が入ってくるので「物つくり」という広い意味で「クラフト」なんです(笑)。
――ビックワンクラフトをスタートさせたことで、ほかメーカーさんとの関係に問題はなかったのでしょうか?
スタート前にお話ししてて「絶対に御社がやらない所をやります!」とお伝えしました。例えばメディコム・トイさんなら「鋼鉄ジーグ」は発売するけど劇中に登場する敵のサイボーグは発売しませんよね。ビックワンクラフトは小回りが利くので隙間を埋めやすい(笑)。以前ダイナミックプロさんの新年会に伺った時、永井豪先生へ「[ダイナミックヒーローズ]をやらせていただいています]とご挨拶したんですね。最初、永井先生は「がんばって下さい」とあっさりした感じだったんですが、会話中で「法印大子(怪獣少女から発売)を作らせていただきました」と言ったら途端に「ヒャー!」ってうれしそうな表情に変わったんです。それを見て「原作者をよろこばせるキャラクターは、マイナーでもぜひやりたい!」と強く思いました。メディコム・トイさんとは今まで通りで、今後のアイデアもすでにいただいています。ほか個人メーカーさんが、どう考えているか解りませんが、版権モノは業界を引っ張る原動力になるし、始めてソフビ知ってもらえるきっかけになり易いので、ソフビ界を底上げするためにも、ここをがんばりたいと思います。

4/原型のこだわりと個性について

――改めて原型師として聞かせてください。レトロなフォルムのソフビ原型の造型で、気をつけていることは何かありますか?
私の感覚ですが「子供の時にマルサンやブルマァクのソフビで遊んでいた時、脳内でもっとかっこ良く変換していたイメージ」です。丸みや可愛いフォルムは好きでしたが、劇中の怪獣と似てない不満はありましたから。それを頭の中でかっこ良くリファインしたモノを再現するというのが基本にあります。イメージ出来ればどんなキャラクターでも出来ますが、逆にイメージ出来ないモノは無理ですね(笑)。
――あべさんが考えるレトロなフォルムの定義はなんですか?
やはりイメージ出来るかどうかが全てなので、改まって聞かれると特に定義はないです。マルサンやブルマァクって世代的には私より上なんですが、あのフォルムが好きなのは日本人の感性に合った土着的なセンスだからだと思います。事前に情報がなくても見た瞬間すごく懐かしさを感じる。仲間とよく話すんですが、リアル造型はひとつ出来が良いモノがあったらそれで充分です。でもレトロなフォルムは逆に幅があるので表現の場としては最高だと思っています。
――確かにその通りですね。依頼原型と、自分で作りたいものの原型の場合、何か気持ち的な違いがあったりしますか?
どちらも「その先の買ってくれるお客さんがよろこんでくれてこそ」だと思うので、そういう意味で特に違いはないです。ただ依頼していただく場合、依頼元のイメージがあやふやだと全く違うモノになってしまいますから、依頼では遠慮なく要求してほしですね。
――どんどん要求して欲しいと! その視点は、プロのマンガ家を経験していればこそという気がします。
それは凄くあると思います。あとマンガでも立体でも作家の個性ってありますよね。私は「自分の個性がこれ!」と示せる個性はニセ物だと思っているんですね。真の個性とは、自分の経験値に応じて、勝手ににじみ出てきてしまう。それを「自分自身が信じられるかどうか?」だと思っています。私は信じているので、自分の個性や造型の際のアレンジなど、正直あまり考えたことがない……考えてしまうとダメ! ぐらいに思っています。また自分もそうでしたがマンガ家デビュー、同人誌への移行、造型スタートなど、行動を起こす時、常に3年をひと区切りと考えているんですね。私はそれぞれ3年である程度、結果が出ましたが、逆に3年経っても芽が出ない場合「単にあなたの個性が誰にも好かれなかっただけ……」だと思うんです。
――実に厳しいですがその通りだと思います。以前、赤司さんインタビューで「あべさんの原型は進化する!」と語られていたんですが、そう言われることについていかがですか?
恥ずかしいです。個人的には以前より良いモノを作るだけです(笑)。 毎回考えていることは「どれだけ原型を早く仕上げられるか?」で、これはいつも研究しています。
――本当に数を作られている印象ですが、原型でご本人的に変わったと感じる事などありますか?
実は、2014年頭ごろ行き詰まりを感じていました。自分が作りたかった「鋼鉄ジーグ」と「グレンダイザー」の後、メディコム・トイさんの提案で「パーンサロイド」「スペイザー」を製作したんですが、この2体は変化球です。この提案自体にそんな意味は無かったと思いますが、個人的に「もう変化球を使わないとダメか? これ以上、王道で新しいモノを作ることが出来ないのか? 自分の原型を成長させることは出来ないのか?」と感じてしまったんです。大きなキーポイントになったのが2014年の夏の「WF」で作った「ポセイドン」でした。ここで初めて私の原型のアンチだった人たちが「素晴らしい!」と言ってくれて、自分の原型が「ひとつ抜けた!」と感じました。例えて言うと、これまでの自分的なレトロは、世代的に[キングザウルス]などのポピー(80年代に活躍するおもちゃメーカー)のデフォルメでしたが、この「ポセイドン」で始めて60年代~70年代的なもっと幅広いレトロから新しい世代のファンが満足する視点で造型が出来た感じがしたんです。それは誤解を恐れずに言うと「ちょっと手を抜く」ということでした。「いい加減に作る」ということではなく、肩の力を抜いて作る感じですね。道具を使う時、それまで力を込めていましたが、その力加減が凄く影響あったんですね。ここで力を抜くと「こういうことが出来るのか!」ということを初めて理解したんです。そこから2014年の末は「レッドバロン」「マッハバロン」「ゲッター3」「レッドタイガー」「ランボルジャイアント」「吉本ソフビ」を同時進行して、しんどかったのですが、さらに自分の中で技術を進化させられたと感じています。

5/趣味趣向などについてお聞き出来ればと思います。

――子供の頃好きだった作品の思い出などありましたら聞かせて下さい。またそれが今の自分の指針になっていたりするんでしょうか?
これはよく思うことなんですが、例えば子供の時に見たマンガや映画が、その後の自分にとっての人生の指針なっていると思う人生なんて「捨ててしまえ!」と思っています(笑)。作品はあくまで娯楽です。感動するのはいいけど、それは人生の指針にはならない。本当の指針というのは、人と会って話し、自分で考えながら作っていくものだと思っています。ただ作品ならそれを完成させるまでに「どれだけ多くの人たちが情熱をかけたのか?」を調べたり勝手に想像したりするのは昔から好きでしたね。
――特に作品という部分での影響はない感じですか?
作品からの影響はないですが、子供の時はなんでも見ていました。中でも『レインボーマン』が大好きだったんです。内容が凄く土着的で、そこに惹かれたんだと思います。そう考えると育った環境……私は貧乏長屋暮らしだったので、長屋の奥にある空き家などの日本的な退廃的風景からの影響は大きかったと思います。
――パチモノロボット好きなどマニアックな部分への目覚めは、いつ頃なんですか?
大人になってからです。子供の頃や学生時代は、田舎だったので慢性的に情報不足なので大した知識はありませんでしたから(笑)。

6/作品への思い出について

――振り返ってみて1番、印象に残っている作品はどれですか?
もちろん全部ひとつひとつ思い出は多いです。技術的改革となった「ポセイドン」もそうだし、その後にやり直した「レッドバロン」「マッハバロン」「鉄人28号」なども自分の方向性の幅を広げることが出来ました。あえてひとつだと「帰ってきたウルトラマン」ですね。企画の発端はスーツアクター・きくち英一さんとお会いした時「何か出来ないか?」とお話ししたことでした。そこから実現まで1年かかりましたね。というのも以前から発売元だった怪獣軒さんにメーカーとして「体力が無さ過ぎる!」というジレンマを感じていたんです。例えば「アストロガンガー」は、全て私が彩色しましたが、これだと供給が追いつかず「怪獣軒のソフビは買えない」と客離れが起こる。そこで、きちんとマスクを作って量産体制を作ろうと提案したんです。同時に私が田舎で通っていた模型屋へ久しぶりに顔を出した時「君たちは都会で活動し、そこへ来れるお客さんだけに売っている。もっと売りたいのに、地方のファンをほっといて数が出るわけないだろう」と言われた言葉が印象的で、まさにその通りなんです。そこで「帰ってきたウルトラマン」では、怪獣軒さんへ「販売に関して全て私に任せてほしい」とお願いたんです。これまで通販は1回で販売していたんですが、これだとタイミングが合わなくて買えないファンが出てきます。そこで販売時期を1ヶ月ごと3回にわけたんです。そうすると私が彩色する負担も軽くなるし、地方のファンもお金のあるタイミングで買う事が出来ます。当初、怪獣軒さんから「1回で売った『ウルトラセブン』の方が販売成績が良かった」と言われましたが結果がハッキリ出るまで3ヶ月待ってもらったんです。結果的に徐々に売り上げが伸びて、思っていた以上の成績を残すことが出来ました。このように生産と販売の体制を一新してビジネスモデルの成功例を作れたので「帰ってきたウルトラマン」はとても重要な作品になったと思います。

7/[プリケッツ]大ブレイク

――そして現在、ビックワンクラフトをスタートさせていかがでしたか?
ソフビの販売数については個人の時からやってたから、ある程度を読むことが出来たし、初年度は売り上げもよくて予定通りという印象でした。1番大きな変化は、工場に全て任せられる生産ラインの確立でしたね。あとは会社として権利交渉出来ることで今は版権モノがメインですが、いずれ一般企業キャラクターへプレゼンしたいと考えています。
ーーご苦労された部分はありましたか?
販路に関して徐々に広がっていますが、まだ時間がかかりそうなことですね。最近、大手百貨店のイベントへお誘いいただいたのですが、販売方法などの問題で地方のファンに届けることが出来なかった。これは非常にフラストレーションが溜まりました。全国のファンに買ってもらう事がテーマなので、芽が出るまで種をまき続けないと。あと具体的な部分では会社の実務で、新作や色替えなどの度に契約書へハンコを押しますが、その量が想像以上に多くて、理解していましたが舐めてましたね(笑)。いくらソフビに長けても経営は全く別の才能ですよ。気安く「会社にすれば」って言わない方がいいと思いました(笑)。
ーーそんなビックワンクラフトとして2年めの最大のポイントは[プリケッツ]だと思いますがいかがでしたか?
[プリケッツ]は、現在のソフビが少数生産の抽選販売が主流でマニア層は欲しいモノが買い辛く、ライト層は安いモノしか買わない状況の中、ソフビの原点というか改めておもちゃという部分を見直したいと考えて企画したんです。造形的に多少のボリューム感はあった方がいいので全高約12センチぐらいにして、それなりに細かく造形しました。個人的に昔あったこれぐらいのサイズのポリ人形が大好きなんです。ただ素材的に今はポリがダメなのでソフビなんです。1体800円(税抜)を実現するのに、さらに制作スキルを上げなければならず、私の作業が増えました。でも安ければより買ってもらえるし、ソフビが広がりますからね。
ーーなぜこのシリーズ名になったんですか?
スタート前に赤司(竜彦氏/メディコム・トイ代表取締役社長)さんに相談したんです。そこで私が個人的にポリ人形を「プリケツ、プリケツ」と呼んでて……ポリ人形ってみんなお尻がプリッとしているんです(笑)。それを知ってた赤司さんから「“プリケッツ”でどうです?」と提案されて決まったんです。
ーー以前のインタビューで[プリケッツ]は、アニメや特撮に限らず、企業キャラクターも可能だし、コレクション性のある幅広い展開が可能とおっしゃっていました。第1弾が「サイバーニュウニュウ」で、その後、墓場の画廊さんの企画展に合わせて続々とアニメ&特撮のキャラクターがリリースされ、まさにその通りになりました。
確かにヒットしました。でもボクが感じたことは思った以上にライトユーザーに届かず、通常のソフビファンで止まっている。このままでいいのか? ということでした。これは決して良くない状況だと思うんです。最近、実家で仕事する事もあるんですが地方なので、そこには何もない。例えば「この地にどうソフビを広めればいいのか?」と考えた時、100%無理だと思いました。またネットで検索しても、ソフビは大手のメーカーが最初に出て、次にスタンダードサイズの画像が出てくるだけ。ネットも事前に知識を持ってないと、知って欲しい情報に辿り着けないツールになっていると感じました。もっとソフビを知ってほしいライトユーザーには届き辛いんですね。
ーー確かにネットは、あまりに情報があり過ぎるが故にそうかも知れないですね。となると、ますますソフビが広がることは厳しい状況ですね
そうなんです。唯一「広げる可能性があるのかな?」と感じたのがソフビイベントでは無いイベントで、例えば先日開催された和田アキ子さんイベントや、もっと言うならコンサート会場での物販。そしてもうひとつが商店街のいろんなお店に300円ぐらいの安価なソフビを置いてもらうこと。そこで子供たちに買ってもらって、ソフビ原体験を植え付けることで将来的にソフビのお客さんになってもらう。これは10年~15年ぐらいの計画で荒唐無稽に聞こえるかも知れませんが、次にお客さんになる世代を開拓しておかないとダメだと思うんです。だってあと10年したらカード世代がメインになって、その世代は立体信仰がないため完全にソフビが廃れてしまうと思うんです。そんな時代を生き抜く方法など、今から礎を作っておかないと、もうソフビは海外産フィギュアに侵食されて、無くなってしまうと思っているんですよ。
ーーそこまでソフビ界について真剣に考えられている事に驚きました。現在[プリケッツ]が凄くブレイクしてるので、相当な手応えからウキウキされていると思っていたんですが……。
もちろん[プリケッツ]の手応えは感じています(笑)。ひとつビックリしたことがありました。スタンダードサイズを発売するとファンの間で話題になるんですが[プリケッツ]は全く話題にならないんです。ところが数字だけ上がっていく。これはコアなファンの枠を出たメジャーな動きでは? と感じました。そんな可能性は秘めていると思いますが、先ほど言ったみたいに、まだまだライトユーザー手前で止まっている。数字で分かるんですが、例えばメジャーな「ウルトラ」だと子供ファンが多いので単品が売れる。逆に「ミラクルロボットフォース」の場合、単品も準備しましたが、結局ファンはまとめて購入するのでセットでいい。実はいろんなキャラクターで[プリケッツ]を発売しましたが、ほとんどがこういう結果でした。だからメジャーな作品だったら単品でライトユーザーを底上げし、その人達がその後、深く興味を持ってくれた時「マニアックなセットを買ってくれる流れが出来ればいい」と思いましたね。
ーーそれを考えると墓場の画廊さんで毎回企画展に合わせて、次々と[プリケッツ]を投入されていましたが、それが出来たことは良かったんですね。
そう思います。「ウルトラ」だと親子連れで買ってくれるから大事ですね。そこからさらにもう1歩進めて商店街なんです。「ソフビと関係ない場所へ、いかにソフビを投入していくか?」だと思います。今の子供たちにソフビ原体験を作れる場所を作っていきたいんです。そのためにも、もう少し販売ルートを幅広く考えないといけないと思っていますね。

大人気の[プリケッツ]シリーズ
↑大人気の[プリケッツ]シリーズ

8/国内外のソフビ界について

ーー次にあべさんの立場から見た国内のソフビ界についての印象を聞かせてください。
個人の印象としてはネガティブな印象ですね。スタンダードソフビが売れない……まだビックワンクラフトは、がんばっている方だと思いますが……というのは最近はファンが購入に疲れている印象を受けます。だからライトファンに向けて[プリケッツ]を考えました。でもこれは心配もあって「小さいモノに慣れたお客さんが将来的に大きなスタンダードソフビを買ってくれるのか?」という不安があります。そのため今後のビックワンクラフトとしては、この状況を踏まえて「スタンダードソフビと[プリケッツ]を、どうバランス良くやっていくか?」なんです。また会社のノベルティ展開もライトファン層を開拓出来ると思うので、ウチとしては強みだと思います。ほかクリエイターさんたちを見ると、こなつさんとかナカザワショーコさんみたいに、かわいいキャラクターはソフビの根本的な魅力だし、女性も買ってくれるし、とてもいいと思います。女性が買わないと消費は上がりませんからね。まあ、いろいろ考えていますがお客さんの反応を探りつつ、今は非常にふんばり時だと感じています。
ーー最近、海外……特にアジア圏の勢いが凄いですが、それに関してはいかがですか?
まず版権モノに限っていうとスタンダードサイズで物凄くマニアックなキャラクターを製作してる。ウチも[プリケッツ]でマニアックなキャラクターをやらせていただいていますが、スタンダードサイズとなると利益を出すのは無理だと思います。だからそこは悔しいし、羨ましいです(笑)。ウチももっと軌道に乗ってくれば、そういう部分も手がけたいと持っています。
ーーそれと同時にアジア圏から多くの購入者が押し寄せてきています。
それは海外のセカンドマーケットで高価になるからですよね。それに対して国内の地方ファンは、良いイメージを持つわけがない。ただビックワンクラフトとしていえば、ウチのソフビは比較的いつでも購入出来るので、そういう意味ではアジア圏にあまり目をつけられてないんです(笑)。海外のお客さんといえば、私が原型師デビュー当時に買ってくれた方は、未だに増えもせず減りもせず、ずっと買いに来てくれる。そういう意味で海外のお客さんの今の感じは理想的だと思っています(笑)。極端な流れに左右されず、本当に向き合わなければいけないお客さんと向き合っていく。ここが1番重要ですね。それが将来ピンチになった時、きっとウチを救ってくれるんじゃないかと思うんです。

9/これからについて

ーーそれでは今後のあべさんやビックワンクラフトに期待する全国のファンへ一言お願いします。
もっとソフビを大きなくくりで見て、おもちゃとしてソフビを扱ってほしいし、おもちゃとしての楽しみ方をしていただくことが1番うれしいと感じています。これからもおもちゃとしてのソフビを重点的に投入しながら、そこへキチンとマニアックなモノも投入していきます。今はマンガやアニメもそうですが予備知識がないと解りづらいんですね。だから一見さんが入り辛い……何かをしながらでも頭に入る作品が大事だと思いますし、ソフビにもそういうモノがないといけないと思っています。だからそこを目指して今後もがんばります。
(2018年5月9日/都内某所にて収録)

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